第5巻

「色彩」 「編集」 「テレシネ」について



:「ロール7の部分で、キングコングが落雷を受けるシーンが有りますよね...。あそこの部分が、日本版と海外版で違っている様に観えてたんですけど、今回の4K版では、これまでの日本版とは違う印象を受けてて...。凄く綺麗で繊細で...。後ろの山林火災みたいな所も綺麗に見えているので、何か特別な処理とか、されたのかな〜と思うのですが...。」
  
清水さん:「あそこはあれですね...、今までのビデオだと、ビデオで色調整してるんで、色調整の幅が限られちゃってるんですけれど、今回、ネガをスキャニングした時に『LOG(ログ)』っていう状態になってるんですね。このLOG、っていうのは、フィルムに入っている情報を全部取り込むっていう感じなんです。だから、暗い部分もそこをよ〜く明るくしていくとディテールが見えてくる...明るい部分も、ちょっと沈めると、ディテールが見えてくる状態で撮ってるんで、色の調節の幅が物凄く広いんですよ。だからビデオだと飛んじゃう所も、LOGでスキャニングしてそこから色調整をすると、今まで見えなかった所が見えてくる、っていうのが出来る様になるんですね。」

TORIさん:「飛ばない様に抑える事が出来る訳ですよね。」

清水さん:「そうですね。それでかな〜という感じはあるんですよね。」



:「えと、『高島さんが、佐原さんの部屋へ行くシーン』が有って。あれって途中の編集ポイントが(1985年版と1991年版LDで)変わりますよね...。あの編集ポイントが変わったのには、何か理由があるのかな、って...。」

TORIさん:「つまりね。この時(1985年)っていうのは、もしあそこの『高島廊下歩き』を、途中から...要するに『16mmの退色プリント』から、『35mmのニュープリント』に1カットの中で切り替えると、あまりにも目立ち過ぎるので、これはカット頭から16mmにしちゃおうっていう事だったと聞きました。」

:「あ〜...なるほど。。もう決定していた事なんですね。。」

TORIさん:「あの、同じ事がね、『日本誕生』の復元ビデオ(1991年)と復元LD(1992年)で有って...」

:「(ここで『日本誕生』のLDを鞄から取り出す...)」

TORIさん:「これ(日本誕生)がビデオ(1991年8月発売)の時は、コマ単位までニュープリントを使ってるんですよ。生きてるコマ、ギリギリまでニュープリントを使って....これは『35mm』と『35mm』で足してますから、こっち(キングコング対ゴジラ 1986LD)みたいに『16mm』じゃないから、まだマシだっていうんで、で、しかもこの当時は『あの赤い35mm以外には全長版は存在しない』って言われてたから。短縮版のニュープリントの使える所まで使って、だから『刀を振り落とす途中までニュープリント』で、『その途中から退色プリント』っていうのが有ったんです...。ビデオの時はそうだったんです。『あまりにも観辛い』っていうので。これのレーザーディスクになった時には、『1カットの中で移り変わるのはやめよう』と...。だからレーザーディスク(1992年8月発売)の方の『日本誕生』は、殆どの余程ひどい場合を除いては、カットの途中でフィルムの状態が変わらない様に使ってる筈です。だから『ビデオ』とでは相当変えてあります。」

:それが、こちら(キングコング対ゴジラ 1991年11月発売LD)の方に生きてるんですね。」

TORIさん:「試行錯誤してた...この時代はね。」

:「これ(日本誕生LD)はいつ頃、編集されたものなんですか?」

TORIさん:「『キンゴジ』のこのレーザーディスク(1991年)の直前じゃないですか?(日本誕生の)ビデオが...。(日本誕生の)レーザーディスクは、これ(キンゴジ1991年LD)の後だと。『キンゴジ』の前に『日本誕生』のビデオ(1991年8月発売)が有って、あれをやったんで、『キンゴジ』(1991年11月発売LD)の話が周ってきた様なもの...かな。
『日本誕生』はなんせ...ねぇ...長さが半端無いから...」

:「そうですよねぇ...長い...ですけど...でも編集ポイントとか、本当に凄く面白くて...」

TORIさん:「だから、あの時には『日本誕生』は短縮版は東宝に残ってるけど、全長版はフィルムセンター(東京都中央区 1970年開館)に有る、ボロボロのやつが1本切りで、もうあとは東宝...何処探しても見つからないって言われたんで、フィルムセンターの35mmと、可能な限りニュープリントに置き換えてやろうっていう事でやったんだけど、DVDの時にシレーっとニュープリント(新たに見つかった全長版)で商品化されてるんで...。」

清水さん:「(笑)...いつの間に見つかったんでしょうね...(笑)。」

:「もう、これ(日本誕生)のDVDはめちゃくちゃ綺麗な画質だったんで、ビックリしました.....。。.」

TORIさん:「だけど...でも、MEテープは短縮版しか無いから...。あのDVDのフル尺と全然合わないサイズで短縮版のMEが入っているんですよね...。あのDVDは...。」

清水さん:「あ、そうなんですか...へぇ〜...。」

TORIさん:「だけど、その短縮版のDVDのMEは、昔、TBSで夜中にやった短縮版の『日本誕生』のテレビ放送にに乗せると合う...。」

清水さん:「(笑)」

TORIさん:「だから『日本誕生』のテレビ放送用(16mmフィルム)は、短縮版のしか無かったんだろうな...。短縮版は音楽の付け方も全然違うから...」

清水さん:「ナレーションも入ってるんですもんね...。」

TORIさん:「ただしね...この『日本誕生』の時には、復元の為に作成したキューシートを処分しちゃったんですよ...残ってない...。だから『キンゴジ』の時には、せめて、残そうと思って残してあったから。」

清水さん:「そうですね...あれを一から作ると、また大変だったんで...役立ちました...。」

TORIさん:「全カットの繋ぎを、このLD(キンゴジ1991年)作った時に、全カットどういう風に繋いだかの表を、全部取ってあったんですよ、当時の仕事のやつを趣味で...。ブルーレイの時には、あれ(キューシート)を下敷きにしてやっちゃえばいいや、っていうんで...非常に役立った。」

:「素晴らしい〜〜...」

TORIさん:「ああいう、世に二つと無い物は捨てるもんじゃないなっていう事です...世に二つと有る物はどんどん処分しちゃって...(笑)」



清水さん:「実はテレシネって、まずプリントを焼く時に色調整をするんですね。それは『タイミング』っていう作業なんですけど。
そこで一回色調整をした後、更に、テレシネする時にも色調整するんで...。こういうビデオソフトって2段階、色調整を経てるんですよ。その2段階の段階で、それぞれ担当者が別なので、その人の方向性で色が転んでいく訳なんですよ。だからそこで明るくしちゃう人もいれば、暗くしてディテールを見せる人もいたりとか、『雷だから飛ばしちゃえ』って言って明るくしたりとか、そういった所の塩梅で、...ヴァージョン...毎回出る色合いや明るさが変わってきちゃうんですよね。」

TORIさん:「だから担当者が違うから、もうその人の好みで調整が出ちゃう...。で、僕なんかはこういう所に口出しする立場じゃないので、編集の段階までしか口を出せないので、それ以降のものは、極端な話、お任せ?...。だからここまで綿密に指示を出せる立場に無いとそれが出来ないんですよ。もうその先、口を出しちゃいけない領域なんですよ...素人がやってるレベルではね。
ところが今回(4K)は東京現像所が全勢力を挙げてやっているから、神経が細部のどんな所にまで行き届いた上での作業だから、もう正直今までの物とは比べ物にならないくらい神経が行き届いた作業になってるって言っていいと思う。」

:「なるほど〜〜......。。そうだったのですね......。。」

TORIさん:「で、嫌いなのが、海外版の...明るくなりすぎちゃってて...。あれをみんな『これが最高画質だ』って言うけど、『え〜〜??』っていう...。」

清水さん:「(笑)」

TORIさん:「僕はこれが嫌いで...。」

清水さん:「あと、ちょっと青いですよね...。」

TORIさん:「そう、あれがイヤだったんですよね...。」



:「青いと言えば...全然関係無い話なんですけど...『北野ブルー』って...、具体的にはどう言う指示が有るんですか?」

清水さん:「えと、あれは、基本、カメラマンの指示なんですよね...。カメラマンが『タイミングマン』っていう色調整をする人に、『もうちょっとB(青)を足せ』とか、そういう指示を出して、出来上がってきてるのが、その『北野ブルー』ってやつなんですけど、それを観て最終的には北野監督が『OK』『NG』を出すので、監督が最終判断として...監督の好みになってなくちゃいけないんですけど、基本はカメラマンが結構指示を出すケースが多いですね...色合いに関しては...。」

TORIさん:「だから、監督が最終的には『これでいいよ』っていう判断はするけど、『これでいいですか?』って訊く人はカメラマンだとか、そういう場合が多いんじゃないんですか。『ここまではいい...いや、これはやりすぎ...じゃあもうちょっと抑えようか』とか、だけど『ここまで上げていいですか?』、って言うのは監督じゃなくて、カメラマンなり、絵を作る人...その為に絵を作る人が居る訳だから...。その人の好みと監督の好みが合ったのかも知れないですよね。もしかしたら監督が『もう少しブルーを強くちょうだい』って言ったから、やったのかも知れないけど。でもどこまで上げるとか、そういうのは監督というよりは、カメラマン...。
だけど、もうこれ(キングコング対ゴジラ)は...当時のカメラマンに訊くって訳にはいかないから...。要するに、オタクとしての経験として...(笑)」

清水さん:「(笑)...。なので、今回作業の前に、短縮版のプリントを取り寄せて、みんなでそれを鑑賞して、『こういう色合いだよ』っていうのを勉強してから作業に掛かってもらったんですけどね。」

:「あ〜なるほど〜〜〜...。。。」

清水さん:「あと、これ(2014年ブルーレイ収録)の短縮版のテレシネも、当時のタイミングデータが有ったんで、それを生かして...」

TORIさん:「あ、そうなんだ!」

清水さん:「そうなんですよ。それを生かしてテレシネしたんですよ。そしたら、ラストロール(短縮版ロール6)が赤くなってるんですよ。これの時は...そのまま『当時のデータだから』って言ってそのままにしたんですけれども、こっち(4Kデジタルリマスター)の時は、もう一回、そこも一からやり直したっていうところがありますね...。」

TORIさん:「あ、短縮版もそうなんでしたっけ...。」

清水さん:「短縮版も赤いですよ...。本編は短縮版の赤いのを生かして編集して、さらに調整しているかも。」

TORIさん:「そうなんですよね...。それって今度のDVD(講談社:DVDコレクションシリーズ)で調整してる事無いよね?きっと...。」

清水さん:「あ、短縮版のは多分これ(ブルーレイ)と同じだと思います。まだ観ていないので分かりませんが...。」